焼却炉の熱で温まるプールを探せ!──煙突の下の市民プール巡礼

2025/09/21

「煙突の下にプールあり」――これは『市民プール万歳』の中でロバート秋山さんが放った名言です。

一見ジョークのように聞こえますが、その言葉の裏には都市ならではの仕組みが隠されています。ごみを燃やす焼却炉。その排熱を利用して温水プールを運営している施設が、全国各地に存在しているのです。

いわゆる「ごみ焼却場併設型プール」。巨大な煙突のそばで泳ぐという、少し不思議な体験ができる場所です。環境にやさしく、地域住民にとってもありがたい公共サービス。その存在を知ると「市民プールは単なる水泳施設ではなく、地域のエネルギー循環を体感できる場所なのだ」と思わされます。

今回は、そんな「煙突の下の市民プール」を巡る旅に出てみましょう。

廃熱利用の仕組み

ごみ焼却場では、日々大量のごみを燃やしています。そこで発生する熱エネルギーは、単に煙突から逃してしまうにはあまりにももったいないもの。多くの自治体では、この熱を回収して「蒸気タービンで発電」したり「地域暖房」に利用したりしています。その一環としてプールの加温に使われることがあるのです。

石油やガスでプールを温める場合と比べ、CO₂排出量を大きく削減できるのが特徴。持続可能な社会を目指す今、まさに理想的な仕組みといえます。

代表的な施設の例

池袋スポーツセンター

池袋駅からほど近い「池袋スポーツセンター」は、としま清掃工場の廃熱を利用して温められた温水プールを備えています。25mプールのほか、トレーニングジムやスタジオもあり、都心で働くビジネスパーソンから地元のファミリーまで幅広く利用されています。都市の真ん中で「ごみのエネルギー循環」を体感できる、珍しい施設といえるでしょう。

シンコースポーツアクアプラザ

名古屋市の近郊、北名古屋市にある「シンコースポーツアクアプラザ(北名古屋衛生組合温水プール)」は、2022年8月にオープンしたばかりの比較的新しい施設。ごみ処理工場で発生する余熱(水温の高い水/高温水)を熱源としてプールを温める方式を採用しており、通年利用が可能です。25m × 5コースのプールに加え、幼児用・学童用プール、水中ウォーキング/リハビリ用ゾーンなど、幅広い利用者に対応。アクセスや利用料金も住民に配慮されていて、環境意識と健康づくりを両立したモデル施設と言えるでしょう。

クリンピア前島(前島熱利用センター)

大阪府高槻市の「クリンピア前島(高槻市立前島熱利用センター)」は、ごみ焼却炉の余熱を回収して温水プールや浴室などの加温に供給する「サーマルリサイクル」を採用した公共施設です。屋内25m温水プールを中心に、浴場・スタジオ・多目的室などを備え、通年で利用できるのが特徴。焼却熱を有効利用することで燃料消費とCO₂排出を抑えつつ、住民の健康づくりやレクリエーションの場を提供しています。高槻市の公式案内にも「ごみ焼却熱利用による施設運営」が明記されており、地域のサステナブルなインフラの好例です。

煙突の下で泳ぐという体験

初めて訪れると、多くの人が「煙突の下で泳ぐのは大丈夫なの?」と心配します。実際には排ガスは高度に処理され、周囲の環境基準は厳しく管理されているので安心。むしろ巨大な煙突を見上げながら泳ぐ体験は、他では味わえない独特の風景です。

プールサイドで休憩していると、窓越しに見える巨大煙突から白い蒸気が立ち上る──その光景は、生活の裏側を支えるエネルギー循環を実感させてくれます。子どもたちにとっても「ごみ処理」「環境」「エネルギー」を学ぶきっかけになるはずです。

エコ+健康+地域コミュニティ

廃熱利用プールの価値は、単なる「省エネ」にとどまりません。

  • ・環境教育:清掃工場見学とセットで学べることも多く、子どもたちに持続可能な社会を体験させられる。

  • ・健康促進:市民の誰もが低価格で温水プールを利用でき、日常的な運動不足解消に貢献。

  • ・地域の交流拠点:シニアの水中ウォーキング教室から、子どもの水泳教室まで幅広い世代が集まり、地域コミュニティの核となる。

つまり、「廃熱プール」は環境と健康と地域を同時に支える仕組みなのです。

全国に広がる可能性

現在、日本には約1,000か所のごみ焼却施設があります。そのうち、廃熱を地域冷暖房やプールに活用している自治体はまだ一部にとどまります。今後さらに広がれば、エネルギー効率が上がるだけでなく、プール文化もますます豊かになるでしょう。

また、都市部だけでなく地方にも展開すれば、「冬でも泳げる場所がない」という課題を解決し、地域活性化にもつながります。

おわりに

「煙突の下の市民プール」は、一見するとただの公共施設。しかしその裏には、ごみ処理とエネルギー循環をつなぐ工夫があり、地域住民の健康や交流を支える仕組みがあります。

もしあなたの住む町に清掃工場があれば、その近くにプールがないか調べてみてください。煙突の下で泳ぐ体験は、日常にちょっとした驚きと学びを与えてくれるはずです。

次の休日、ぜひ「エコな市民プール巡礼」に出かけてみませんか?

👉 ちなみに、全国各地の市民プールを検索できる便利なサイト「プールへGO!」では、行きたい場所や条件に合わせて探してみれば、まだ知らない“煙突の下のプール”に出会えるかもしれません。

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